2019.07.24

地域食材生産者インタビュー/金井いちご農園

理想の生き方を目指し新規就農に挑戦

 2019年1月22日、群馬県庁で第36回群馬県いちご品評会が開催された。県育成品種のやよいひめと、その他品種の2部門で最高金賞を受賞したのは、高崎市我峰町で金井いちご園を営む、金井繁正さんだ。2年連続で二冠を果たし、「昨年初めて最高金賞をいただいた時よりも、重みを感じます」とほほ笑む。
 2007年、28歳で新規就農した金井さんの前職は、半導体メーカーのサラリーマン。26歳の時、
いちご農園を営む妻の叔父と出会い、生き方や人柄に強くひかれたという。「50歳の叔父が仕事について熱く語る姿を見て、自分もこのように年を重ねたいと思いました」。兼業農家の長男として生まれ育ったものの、農作業に全く興味がなかった金井さん。実家の水田を畑に転用し、いちご農園を作りたいと両親に相談すると、喜ばれるどころか、猛反対された。


 それでも、夢をあきらめきれない金井さんは、仕事の合間に叔父のもとへ通い、いちごづくりを学び始める。その翌年には会社を退職し、修業に専念。栽培技術だけでなく、接客や経営ノウハウも身に付けた。
 就農を決意して3年目、金井さんの熱意に打たれた両親は、土地の提供を承諾。実家や近隣農家から18アール(約545坪)の土地を借り受け、奥さんと二人で念願のいちご園を立ち上げる。
 2年間の準備期間を経て、万全の態勢で独立したものの、「いざ自分で全て行ってみると、迷いやアクシデント続きでした」と振り返る。ハウスの完成が遅れ、慌てて苗の定植を行った思い出も、今では笑い話だ。
 一方、顧客の意見を直接聞きたいと考えていた金井さん夫妻は、就農1年目から、県道29号線沿いに直売所をオープン。甘みと水分をたっぷり蓄えた、朝摘みいちごを店頭に並べるため、毎日早朝から収穫作業に励んだ。
 おいしいいちごを人々に届けたい。その一心で、徹底した温度管理や減農薬栽培に打ち込んだ金井さんの努力はやがて、県内でも高く評価されるようになる。生産者たちが技術を競う群馬県いちご品評会や、群馬県いちご立毛共進会でも上位入賞を獲得。さらなる技術の向上を目指し、ますますいちご栽培にまい進した。

屈辱の悔しさをバネに6次産業にも挑戦

現在、15人のパート従業員を雇用し、年間5~6トンのいちごを出荷している金井いちご園。商品力や知名度の高さから、贈答用として買い求める人が多いのも、同園の特徴である。
 安全で上質ないちごを栽培するため、金井さんがこだわっているのは、健康な土づくり。収穫後の消毒には薬剤を使わず、畑に大量の米ぬかや肥料を投入してその発酵熱で菌を死滅させる、土壌還元消毒を行っている。手間やコストがかかっても、安全性には代えられない。土づくりから苗の育成まで、全ての行程に最善を尽くすのが、生産者の使命だ。
 地道な努力を重ね、少しずつ規模を広げていった同園は、オープンから4年目、28アール(約847坪)へと農地を拡大した。しかし、8シーズン目を迎えた2014年、大雪の被害を受け、ハウスの3分の1が倒壊。その影響は予想外に長引き、翌年になってもハウスの再建ができなかったという。
 ハウスが縮小した分、空いた時間の増えた金井さんは、この悔しさをバネにしようと決意。6次産業に進出するための、オリジナル商品づくりを始めた。この時生まれたいちごスムージーが評判となり、客層を広げるきっかけとしたのも、金井さんの強さだ。

 雪害の2年後にはハウスを再建し、収穫量も回復。金井さんはさらなる品質と収穫量の向上を目指し、最先端技術の環境制御システムも導入した。ハウス内の温度や湿度、光合成に必要な二酸化炭素を数値化し、より味や品質の向上を図るというものだ。「外気温に左右されず、安定しておいしいいちごを栽培できるようなシステムの構築を目指しています」。
 一方、常連客の要望に応え、同園では昨シーズンからいちご狩りをスタート。広々したハウスでは、やよいひめをはじめ、さちのか、桃薫、おいCベリー、もういっこ、さがほのかなど、16品種のいちごが食べ比べできる。「甘さや酸味、香りの違いを楽しみながら、いちごの魅力を再発見してくれたら、うれしいですね」。
 未経験からスタートし、県内有数の生産者となった今も、「まだまだ夢の途中です」と、金井さんは前を向く。
食べておいしい、贈って喜ばれるいちごを目指して。金井さんはこれからも、真摯にいちごと向き合う


金井いちご農園

高崎市我峰町279-2 TEL.027-344-1077
販売期間/12月上旬~6月上旬(期間中無休)
営業時間/9:00~18:00(売り切れ次第終了)
いちご狩り/10:00~15:00

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